【 連載 】教えて!リカー先生 その① 『麦焼酎の原料は麦。ではウイスキーの原料は?』
2018/07/09
沖縄酒場のカウンターに、「泡盛」の一升瓶が30種類ほど並んでいた。ラベルには漢字で銘柄が書かれていて、パッと見は本格焼酎に似ているけど、絵柄や派手な色使いが鹿児島よりも南国を感じさせる。そこで BEGINの島唄なんか流れていたときには、一気に沖縄へトリップしてしまうのだった。
泡盛は米麹と水だけを原料にして造られる蒸留酒。沖縄県で造られたものだけが「琉球泡盛」と呼ばれる。原料の米は、主にタイ米。インディカ種の細長い米だ。黒麹菌を使って米麹を造り、水と酵母を加えて仕込む。本格焼酎のように麦や芋や米などをそのまま原料として加えるのではなく、全量を麹に変えて仕込むのが特徴である。
蒸留には原料の風味が残る単式蒸留を行うので、泡盛には独特の香りや味わいがある。近年は、国産米を原料にしたもの、吟醸酵母を使ったもの、減圧蒸留したものなどバリエーションも増えてきた。
一升瓶で売られている泡盛の多くは、蔵元が古くから造ってきた製品で、泡盛らしさはもちろん、その蔵ならではの味わいをしっかり継いでいる。沖縄酒場にずらりと並んだ泡盛は、ひと通り味わった。アルコール度数30度。その店では、ロックで注文すると琉球ガラスの美しいグラスになみなみと注がれたので、いっぺんにそう何杯もは飲めなくて、ずいぶん通うことになってしまったのだけど…笑。
本場沖縄では、あまりロックで飲んでいるのを見ない。どうやって飲むのが一番おいしいのか。ひとつの例は、こうだ。一升瓶を開けたら、半量を空の一升瓶に移し、両方を水で満たして2本にする。日が暮れたら、それを浜辺へ持ってって、みんなでゆんたく(おしゃべり)しながら飲む。興が乗ったところで三線が登場し、唄えや踊れとなるのだ。
離島の民宿などに泊まると、夕食の後に一升瓶がどーんと出てくることがあった。オジィの昔話などを聞かせてもらいながら飲んだり、泊まり客みんなでワイワイやったり、宿の主人が三線を弾きながら唄う沖縄民謡を聴きながらなんてことも。そして驚くことに、こういった泡盛は宿のサービスで、別料金を請求されたことがない。
静かにじっくり味わいたいなら「古酒(くーす)」がおすすめ。全量3年以上貯蔵してあることが古酒の条件なのだが、3年なんてまだまだ若造で、5年10年ものもふつうに流通している。第二次世界大戦によって失われてしまったが、戦前には100年を超える古酒が各家庭にあり、家宝として賓客に振る舞われていたという。
ステンレスタンクなんてない時代。貯蔵には南蛮甕を用いた。いくらなんでも100年も貯蔵したら、蒸発して空っぽになってしまいそうだが、それを可能にしたのが「仕次ぎ」だ。沖縄県酒造組合のウェブサイトにある解説を引用させていただこう。
”年代物の古酒にそれよりは少し若い古酒を注ぎ足すことで、古酒の熟成した香りや芳醇さを保ちながら、酒を劣化させないようにする手法です。名家では年代物の泡盛古酒の甕を古い順に1番から5番、6番まで用意したといいます。1番甕から最上の古酒を汲み取ったら、その減った分をそれより若い2番甕から注ぎ足し、2番甕には3番甕から……というふうに、どんどん循環させます。”
なるほど。こんな方法で古酒の香味を守り、逆に深めながら、その量も減らさないようにしていたのか。まさに家庭で古酒を育て、子や孫、ひ孫へとわが家の酒を継承していったわけだ。
そもそも泡盛には、どれくらいの歴史があるのだろう?沖縄で泡盛が造られはじめたのは、琉球王朝時代の15世紀初頭とされている。交流が盛んだったシャム国(現在のタイ)から蒸留酒がもたらされ、その製法にならって造られたという。あ!だからタイ米を使うのか!と思ったら、それは違った。タイ米が原料として定着したのは1900年代に入ってからで、それまでは沖縄産ほか中国や韓国の米が使われていたようだ。また、アワ(粟)も使われていて、それが「泡盛」の名前の由来という説もある。
この泡盛の製造技術は、沖縄にしかなかった黒麹菌も含めて、また海を渡り、薩摩へと伝わった。そうして、鹿児島で本格焼酎が造られることになったのである。本格焼酎のルーツは泡盛であり、そのルーツをたどれば中世に中東で生まれたアランビック蒸留器。アジア各地でアラックという蒸留酒を生みながら東へ東へと伝播し、ついにアジアの東端まで到達したのだ。なんか壮大なドラマを感じません?
琉球王朝時代、泡盛造りは王府によって管理され、首里の限られた地域でのみ許可されていた。現在は、本島から宮古・八重山地方まで沖縄全土に47の酒造所が広がっている。そのなかで一風変わっているのが、与那国島で造られている「花酒」だ。アルコール度数45度以下と定められた泡盛の定義を超えて、60度以上あるため、酒税法上は泡盛ではなくスピリッツに分類される。
泡盛には、やはり沖縄料理が合うね。ミミガー(豚の耳)をつまみながら水割りで。ラフテー(角煮)やチャンプルーを食べながら、さっぱりとさんぴん茶(ジャスミン茶)割り。豆腐よう(豆腐の発酵食品)を爪楊枝でちびちび崩しながらロックで。シークヮーサーを搾ってもいいし、若者に人気なのはコーヒー割り。泡盛コーヒーとして定着しているのだ。
<参照サイト>
沖縄県酒造組合
https://okinawa-awamori.or.jp