
同じ原料でもこんなに違う!麦焼酎のひみつ
2022/07/25
音楽仕込み(2)
開発はどのように進んだのですか?
「タンクに直接スピーカーを付けて音楽を聴かせても、目立った効果が得られなくてね。そうしたある日、音楽部の後輩に会って話をしていたら、彼は元高校の教師で、生徒たちの精神面のケアに音楽療法というものを取り入れていたという話になった。それが、耳から音を聞かせるだけじゃなくて、体全体に振動として伝えることで効果を高めるというものだったんですよ」
体感音響ですね!
「話を聞いたとたん、『これだ!』と、ひらめきましたよ」
「昔、清酒を灘から江戸へ運ぶ時に『富士見酒』というのがあってね、富士を見てきた酒という意味で、船で長く揺られてきた酒はおいしいと言われました。だから焼酎に振動を与えることは、熟成にはいいだろうと直感したんですよ」
元々は、音響メーカーが開発した体感音響と呼ばれる技術で、トランスデューサという特殊なスピーカーによって、音楽の信号を振動に変換して伝えるものだ。
この技術を使えば、焼酎に音楽を聴かせることができる。クラシックを聴かせながら、世界のどこにもない酒を造ることができる。そう考えた塚田さんが提案し、1991年、田苑酒造の『音楽仕込み』ははじまった。
工場では、もろみの一次仕込みタンクと蒸留後の貯蔵タンクに、たくさんのトランスデューサが取り付けられていた。現在、1,000個以上が稼働しているという。一次仕込みではもろみの発酵を促し、貯蔵時には熟成の効果を高めるのが目的だ。田苑酒造の麦焼酎のすべてが、この『音楽仕込み』によって造られている。
トランスデューサに触れてみると、ブルブルと小刻みに振えていた。スピーカーから工場内に流れている音楽に呼応して、振動している。音楽が振動に変換されて、焼酎に働きかけているのだ。曲目は田園交響曲ほかクラシックの名曲30曲以上で構成され、全曲7時間20分。これが繰り返し、再生されている。
『音楽仕込み』された焼酎は、まろやかで、舌の上にやわらかな感触が広がるという。田苑酒造では、これを『品格』と呼んでいる。
なぜ、まろやかになるのか。製造部の岩元さんが説明してくれた。
「貯蔵前、原酒を25度に割水したばかりの焼酎は、アルコール分子と水分子がそれぞれの集団を形成しています。そこに音楽の刺激が加わると、アルコール分子も水分子も集団が壊れて小さくなり、アルコール分子が水分子の塊の隙間に入り込むカタチになります。アルコール分子のまわりを水分子がやさしく包み込んでいるような状態です」
だから、アルコールの刺激を感じない、まろやかな焼酎になるというわけだ。塚田さんが後輩から話を聞いた時に直感したことは、こういうことだったのだ。
など30曲目以上の曲が焼酎作りに使われている。