お酒は「酵母」という微生物によって造られます。酵母って、どんなもの?

お酒を飲むと、酔う。それは、お酒にアルコールが含まれているからですね。ではそのアルコールは、どこからきたのでしょう? 本格焼酎のアルコール成分は、「酵母」が造り出したものなのです。

 

酵母は単細胞の微生物で、球形または楕円形をしていて、その直径は5〜10μm。1mmの100分の1以下なので目には見えませんが、花や果実、樹液、土壌など自然界に広く生息しています。なかでも本格焼酎や日本酒、ビール、ワイン、パンの製造に利用されているのは、サッカロマイセス・セレビジエという種類の酵母です。

酵母の好物は糖類で、酸素のある環境では、私たち人間と同じようにふつうに呼吸しながらブドウ糖(グルコース)を食べてエネルギーを得て、水と二酸化炭素に分解しています。しかし液体のなかのような酸素のない環境では、人間は死んでしまいますが、酵母はブドウ糖をアルコールと炭酸ガスに分解しエネルギーを獲得して生き残ります。

 

これが「アルコール発酵」。私たち人間のためにせっせと酒を造ってくれているようですが、じつは酸素のない条件で酵母が生き延びるための手段なのですね。

 

発酵の歴史は古く、はるか紀元前から人類はパンや酒を造ってきました。でも、酵母や発酵のしくみなどは知る由もありません。自然に存在する酵母を利用していただけなので、うまくいかないことも多く、酒造りも神頼みだったでしょう。

 

発酵に微生物が関わっているのを明らかにしたのは、オランダ人のレーウェンフック(1632〜1723)です。自作した高倍率の顕微鏡で、この大きな発見をし、のちに“微生物学の父”と称えられました。

 

微生物の関与がわかっても、酒造の現場では空気中の酵母に発酵を委ねるしかなく、品質は安定しなかったといいます。優良な酵母を1つだけ取り出して純粋培養する方法が発見されたのは1881年。かつては醸造場に住み着いた「蔵付き酵母」を使って酒造していた蔵もありましたが、現在はほとんどの酒造メーカーが純粋培養された酵母を使ったり、自社の優良な酵母を増殖させて酒造りをしています。

酵母の3Dイラスト

純粋培養された酒造酵母にも焼酎用、清酒用、ワイン用と適性があり、焼酎用のなかにもいろんな酵母がいます。焼酎用の酵母は日本醸造協会から数種が頒布されているほか、鹿児島県酒造組合からは鹿児島で開発された数種の酵母を購入することができます。

 

田苑酒造では、どんな酵母を使っているのでしょうか? 研究室に聞きました。

 

当社の酵母は、基本的に自社酵母です。前身の塚田醸造場から使用していた酵母や自社グループで開発した酵母を植え継いで培養し、樽貯蔵焼酎や麦焼酎、芋焼酎とそれぞれの酒質に合うように使い分けしています。

頒布されている鹿児島酵母などを使うこともありますが、酵母はアルコールを造るだけでなく、焼酎の香味の生成に大きく関わっていまして、田苑焼酎の味わいを造り出しているのは田苑独自の酵母ですから、これは変えられません。

香ばしい香り、甘い香り、爽やかな香り、その強さや深さなどを考えて多様な酵母を使って原酒を製造し、独自のブレンドを行っています。

 

酒造に使われる酵母は、出芽酵母と呼ばれ、ひとつの球体から芽を出すように新しい球体が生まれて増殖していきます。その増え方たるや驚くほどで、2時間で倍になり、ひと晩経つと液体1mlのなかに約2億個もの酵母が生息していることになるのだとか。顕微鏡で観たら、どんな様子なのでしょう?

 

小さな生物がウジャウジャ動いてる様子を想像されるかもしれませんが、酵母は自力で運動しません。それでも活発に増殖してアルコール発酵をしていることは、もろみの状態を観ればわかります。アルコールとともに生成した二酸化炭素の泡がブクブクと音を立てて、醸造中の酒の温度がどんどん上がってくるからです。

その様子を、どんな気持ちで観ているのですか?

 

生物ですので、やはりストレスを与えないようにすることが大事です。高温になりすぎないように、アルコール度が高くなりすぎないように管理します。毎日、何度ももろみの様子を観察して、“わが子”の成長を見守っています。

また当社では発酵中にクラシック音楽を聴かせる「音楽仕込み」をしていますので、酵母たちは、いい音楽を聴きながらリラックスして発酵していると思いますよ。

 

焼酎酵母ではない酵母を使った、ちょっと変わった焼酎もありますね。

 

『OTOYOI』です。清酒酵母やワイン酵母を使って、麦や米や芋の本格焼酎を造ってみました。5種を製品化したのですが、原料に由来する香味と掛け合わされて、バナナのような香りやメロンのような香りなど焼酎酵母とはまったく違った香りが生成され、想像を超える、おもしろい焼酎となりました。

そういった意味では、酵母によって、まだまだ新しい焼酎の可能性があるということでしょうか? パン酵母や醤油酵母でも、焼酎が造れますか?

 

パン酵母は同じ種類ですが、10%以上のアルコールで死んでしまいます。醤油や味噌の酵母は高塩度で発酵する酵母で、種類が違います。アルコールは造れると思いますが、焼酎を造るのはむずかしいでしょうね。

 

でも花や果物から採集した酵母なら、十分考えられるといいます。花や果物の種類によっても香りが違うでしょうし、今後も研究が進んでいけば、花酵母や果実酵母を使用した多種多様な本格焼酎が楽しめるようになるかもしれません。

 

 

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