
優しいコレッリの音楽から生み出される”振動” コレッリの「クリスマス協奏曲」
2017/12/18
今回の音楽の力でご紹介するお方は、ヴァイオリニストとしての演奏活動の傍ら教育者として指導にもあたっていらっしゃる三浦道子さん。
普段からお酒も親しまれる三浦さん。楽器や心の“影響”をふまえて、田苑酒造の音楽仕込みの印象からお酒の楽しみ方までをお伺いしました。
母はピアノ教師をしていたんですが、アンサンブルがしやすい弦楽器を、ということでヴァイオリンを始めました。主役として自分を表現するソロとは違って、私が特に力を入れているアンサンブルには、みんなでひとつのものを目指して創り上げてゆく魅力があります。
日々の練習は“出したい音を出すため” “自分の音楽をするため”に重ねていますが、本番でステージに立つ時は普段注意していることは気にせず、音楽そのものを楽しむことを優先するよう心がけています。
また生徒に教える際は、私が良いと思う音楽がその生徒の描いているとおりとは言えないことがあります。テクニックや大まかなフレーズを掴めるようにし、曲の場面ごとのキャラクターをそれぞれ感じてもらえるように教えています。
たとえ同じ曲を扱っていても生徒ひとりひとりの感受性のタイプを考えて、薦める音源を選んでいます。ひとりで練習するだけでは得られない、生徒のいま現在にはない要素を取り入れてもらい、音楽の振り幅を大きくすることが大事だと考えています。
お酒も、聴く音楽によって風味が変わるんじゃないでしょうか。本来は同じお酒でも、モーツァルトのディヴェルティメントのような弦楽合奏を聴いたお酒は上品で軽やかな口当たりになりそうだし、ソロだったらソリストの感情がお酒にもダイレクトに移りそう。ベートーヴェンの第九の四楽章〈合唱付き〉なんかを聴いたらすごく活性されて歓喜に震えているかも…!(笑)人の声と楽器の音色の違いがお酒にどう影響するのかも興味深いですね。
弦楽器、特にヴァイオリンは楽器と顔や鎖骨が接しているので、骨で音の振動を感じることができます。あと、演奏している時に弦の振動を間近で見ることができるからか、まるで楽器が身体の一部になったように感じられます。
だから、楽器の調子が悪い時は自分の身体みたいに分かるんです。湿気が多い日は木が膨らんで張っちゃうので、弦が振動しにくくなったりします。逆にからっとした秋晴れの日はすごく綺麗な良い音が出て、「上手くなったかも!?」と錯覚してしまうほど。
弦から駒、駒から表板、表板から魂柱を伝って裏板まで振動が連続することで響きが生まれるので、そのどこかがわずかに狂っているだけで音が別人になってしまうほど繊細なんです、弦楽器って。この流れ、弾きながら身体でもちゃんと感じられるんですよ。
分子レベルの振動で熟成されているお酒も、緻密な働きかけの動き方で味に差が出そうですよね。
私が聴く側として音楽に触れる時、オーケストラの曲はいろんな楽器の振動が合わさっているから、より深くてボリュームのある響きを感じるし、ソロの曲だと音の振動というよりは音楽の下にある人の心の震えが伝わってきます。
きっとお酒も生きていて、それらを感じ取っているんだと思います。
私自身、普段からお酒はよく飲みます。弛緩されてリラックスできるし、食事もより美味しくなるし。
格段に美味しく感じるのは、やっぱり緊張から解放された本番後のお酒。仕事で地方へ行った帰りの新幹線で嗜むこともあります。
私の周りだけかもしれないけれど、音楽家ってなぜかお酒飲む人ばっかりなんです。そして、良い具合にお酒が入ってくると不思議と音楽の話をしだすんです。「指揮者は誰が良いよね」とか「何年録音のあれは素晴らしい」とか。そういうコミュニケーションを重ねる時間も楽しくて、お酒の力を感じます。積み重ねで創っていく音楽と焼酎は、どこか似ている気がします。
音楽は、その時に持っている感情によって弾き方も聴こえ方も変わってくるもの。同じ音楽を耳にしていても、受け取り方は十人十色です。同じものを聴いてるからって、みんながみんな同じ影響を受ける必要はないと思うんです。心に入ってくるルートは、それぞれ違って当たり前。
そんな中でも、作曲家の想いや意図を忠実に伝えていくことが、演奏家のいちばんの仕事だと思っています。アンサンブルの場合は、メンバーみんなでひとつに創り上げているものを聴いてもらいたい!って気持ちも強いです。演奏者同士の影響で音楽が成り立って、その音楽が今度は聴き手に影響する。やっぱり田苑と似てる…?(笑)今後は音楽との共通点を味わいながら、お酒を楽しんでみたいです。
“振動が感動をもたらす”きっかけは、あらゆる影響が重なること。それが「音楽の力」
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